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税務の勘所Vital Point of Tax

みなし贈与をめぐる争い 出資持分の相続税評価で評価通達の形式適用を認めず!

2016/07/22

Ⅰ.はじめに
 贈与税のかかる贈与とは、本来「あげます」「はい、もらいます」というように、お互いに合意の上、成り立つ契約で、民法549条に定められています。

 しかし、税法上は、本人たちは贈与したつもりがないのに、贈与税のかかる「みなし贈与」という決まりがあります。

 相続税法第9条は、贈与について、「対価を支払わないで、又は著しく低い価額の対価で利益を受けた場合」においては、その利益を受けた者は、その利益の価額に相当する金額を、贈与により取得したものとみなすと定めています。

 今回、紹介する事件は、丙(原告・控訴人甲の母であり、かつ、原告・控訴人乙の祖母)が、自己が有していたC社出資の全部をA社及びB社に譲渡したところ、芝税務署長が、これらの譲渡が時価より著しく低い価額の対価でされたもので、その結果、同族会社であるA社の株式及びB社の持分の価額が増加したことから、その株主である控訴人らは相続税法9条にいう「対価を支払わないで」「利益を受けた」者と認められ、価額が増加した部分に相当する金額を控訴人らが丙から贈与により取得したものとみなされるなどとして、贈与税の決定処分等を行ったことから、控訴人らがその取消しを求めたという事案です。

 非上場会社の出資持分の相続税評価に当たり、評価通達188を適用すると、1口当たり500円の配当還元方式によって評価することができます。

 しかし、平成27年4月22日、東京高裁は、実質的に支配関係が存在するとして、評価通達を形式的に適用せず、これを、1口当たり8万1204円となる純資産価額方式を適用するという判断を下しました(現在、上告及び上告受理申立て中)。

Ⅱ.事案の概要
 この事件は、酒類の大手卸売業を営むA社の株主であり、甲の母であり、甲の子である乙の祖母に当たる丙が、その保有するC社の持分をA社及びB社に対し譲渡したところ、芝税務署長が、その譲渡が時価より著しく低い価額の対価でされたものであり、その譲渡によっていずれも同族会社であるA社の株式及びB社の持分の価額が増加したことから、相続税法9条の規定によりその増加した部分に相当する金額を甲が丙から贈与により取得したものとみなされるとして、また、乙が、甲から上記の譲渡の後にB社の持分及び現金を贈与により取得したことについて、同条の規定により、その譲渡によって乙が甲と同様の利益の価額に相当する金額を丙から贈与により取得したものとみなされるとして、控訴人らに対し、贈与税の決定処分等及び更正処分等をしたことから、控訴人らが、その取消しを求めたという事案です。

実質的に支配する関係として配当還元方式の提要を否認

Ⅲ.裁判所の判断
 同族会社に対する時価より著しく低い価額の対価での財産の譲渡により、譲渡を受けた会社の資産の価額が増加した場合には、その会社の株主又は社員は、その株式又は出資の価額が増加することにより、実質的にみて、その譲渡をした者から、その増加した部分に相当する金額を贈与により取得したものとみることができるものと考えられる。

 相続税評価通達188(1)を形式的に適用すると、C社は、甲及びB社の同族関係者には該当しないことになる。本件における甲及びB社とC社との関係のように、前者が後者を実質的に支配する関係にある場合において、評価通達188(1)及び法人税法施行令4条2項を形式的に適用することは、結局のところ、この通達の趣旨にもとるものというべきであって、このような場合には、後者を前者の同族関係者とみることとするのが相当であり、その点において、同通達の定める評価方式以外の評価方式によるべき特段の事情があるというベきである。

 本件各譲渡に係るC社出資の価額の評価については株式保有特定会社通達を適用すべきであり、C社出資の価額を評価するに当たっては、評価通達189-3に定める純資産価額方式等によることとするのが相当である。

 C社は、取引先13社が社員であった間、一貫して、甲及びその同族関係者によって実質的に支配されていたと認められるのであって、このような事情がある場合に、単独のグループの保有する株式数だけでは会社を完全に支配することができないといえる場合に評価減を行うものとした評価通達185のただし書を適用することは、その定めを設けた趣旨にもとるというべきであって、その点において、同通達の定める評価方式以外の評価方式によるべき特段の事情があるというべきである。

 本件各譲渡により、丙は、A社に対し、C社出資2万4000口を、時価19億4889万6000円のところ、9億4164万円で譲渡し、また、B社に対し、C社出資2万3995口を、時価19億4848万9980円のところ、9億4144万3825円で譲渡したものであって、本件各譲渡については、時価より著しく低い価額の対価でされたものであると認められる。

 本件各譲渡によって、控訴人らは、それぞれ保有するA社の株式及びB社の持分の価額が、甲につき合計3億9155万6650円、乙につき合計249万6000円増加していることから、控訴人らは、相続税法9条に規定する「対価を支払わないで、又は著しく低い価額の対価で利益を受けた」と認められる。

Ⅳ.コメント
 冒頭に書きましたように、本来の民法上の贈与でなく、本人たちは全く贈与などをする意思がなかったのに、贈与税のかかる場合について、税法は「みなし贈与」の規定を定めています。

 この事件の場合も、祖母丙は、全く、贈与をしたつもりはなかったとしても、結果として、子や孫に贈与税がかかってしまったという結果となりました。

 東京国税局課税第一部国税訟務官室から発信されている「課税関係訴訟事件判決速報№1324」では、次のように解説しています。

 「本判決は、C社の支配状況について、形式的な議決権割合によらず、①C社の設立以降、甲及び乙が相当多数の持分を有していた、②本件13社がC社に出資した動機(主要な取引先(A社)との取引関係の強化、維持が目的であった)、及び③本件13社のC社の運営への関与状況(議決権行使は白紙委任又は議案に賛成の委任状を提出)等に基づき、甲及びB社がC社を実質的に支配していたと判示した。そして、これを前提に、C社の出資の評価に当たり、評価通達を形式的に適用することは、その趣旨にもとるから、C社を甲らの同族関係者とし、評価通達の定めによらない特段の事情があるとしてC社が所有するA社株式を配当還元方式ではなく類似業種比準方式で評価し、さらに、評価通達185ただし書きの適用はないとした。         

 判示事項2ないし6は、事例判断であるが、評価通達の定めによらない特段の事情の判定方法及びその具体的な考慮要素等は、会社の支配状況の判定に関する類似事案の判断に非常に参考となると思われる。」

アドバイザー/朝倉洋子税理士

※平成26年10月29日東京地裁判決
   (TAINSコード:Z888-1911)、
 平成27年4月22日東京高裁判決
   (TAINSコード:Z888-1934)

 

 

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